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東京地方裁判所 平成7年(ワ)25884号 判決

原告 オリックス・クレジット株式会社

代表者代表取締役 丸山博

訴訟代理人弁護士 林彰久

池袋恒明

木村裕

山宮慎一郎

被告 小出恒次

訴訟代理人弁護士 松江仁美

塚田裕二

米川長平

津田和彦

松江頼篤

渕上玲子

加藤俊子

主文

一  被告は原告に対し、金一三九一万〇七〇〇円及びこれに対する平成七年六月二七日から完済まで年六パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、被告がゴルフ会員権を購入するにあたり、原告との間で締結したゴルフ会員権クレジット契約(以下「本件クレジット契約」という。)に基づき、原告が被告に分割払金債務の請求をした事案である。

二  争いのない事実等

1  原告と被告は、平成元年一二月一九日、原告が株式会社真里谷(以下「真里谷」という。)からゴルフ会員権(ゴルフ&カントリークラブマリヤ個人正会員権、以下「本件ゴルフ会員権」という。)を購入するにあたり、次の内容のゴルフ会員権クレジット契約を締結した。

(一) 被告は、原告に対し、ゴルフ会員権の現金購入価格一六〇〇万円から申込金三〇〇万円を除いた一三〇〇万円の債務について保証することを委託し、原告はこれを保証する。

(二) 被告は、原告が一三〇〇万円を代金決済日に被告の保証人として真里谷に代位弁済することを承認する。

(三) 原告が代位弁済をした場合、被告は原告に対し、一三〇〇万円に分割払手数料五七五万九〇〇〇円を加算した一八七五万九〇〇〇円(以下「分割払金」という。)を分割して、平成二年二月一〇日に一五万九三〇〇円、同年三月から平成一二年一月まで毎月一〇日限り一五万六三〇〇円宛支払う(≪証拠省略≫)。

(四) 被告が支払期日に分割払金の支払を遅滞し、原告から二〇日以上の期間を定めてその支払を書面で催告されたにもかかわらず、その期間内に支払をしない場合、被告は、前項の分割払金について期限の利益を喪失する。

(五) 遅延損害金 年六パーセント

2  原告は平成元年一二月二五日、本件クレジット契約に基づいて被告の保証人として真里谷に一三〇〇万円を代位弁済した(≪証拠省略≫)。

3  被告は、平成四年九月一〇日以降の分割払金の支払をしない。

原告は、被告に対し、平成七年六月五日到達の内容証明郵便で、書面到達後二一日以内に未払金を支払うよう催告したが、被告は支払わない。

三  被告の抗弁

1  本件クレジット契約書一〇条では、同条所定の事由が存在するときには、その事由が解消されるまでの間、支払を停止することができるとの約定が規定されている。

2  真里谷は、事実上倒産し、平成六年一二月二日には会社更生手続開始決定がされた。このため、ゴルフ場の開場について約定期限である平成四年度完成予定を大幅に遅れているばかりか建設の目途もたっていない。

3  本件ゴルフ会員権は、未完成ゴルフ場の会員権であり、かかる会員権におけるゴルフ場の開場の遅れは、ゴルフ場の利用ができないという点で契約書一〇条の「商品の引渡がない」、「商品の瑕疵」、「商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること」に該当する。

四  被告の抗弁に対する原告の主張

1  契約書一〇条の商品とは、被告と真里谷間のゴルフクラブ入会契約に基づく契約上の地位であり、これには、真里谷が被告に対して本件ゴルフ場を造成、管理したり、被告にゴルフプレーをさせるという役務を提供したりするなどの本件ゴルフ会員権に基づく権利が実現されることを含まない。

2  商品の引渡とは、被告と真里谷間でゴルフクラブ入会契約が成立し、被告が契約上の地位を取得したことである。

3  商品の瑕疵とは、商品の販売時を基準とした商品の原始的瑕疵を意味し、後発的瑕疵を意味しない。本件ゴルフ場の開場遅延は、契約書一〇条の規定する「販売について生じている」事由ではなく、販売後に真里谷側の事情に起因して生じた事由である。

五  争点

本件ゴルフ会員権クレジット契約について被告が主張する契約書一〇条記載の事由に該当する事実があるか。

第三判断

一  証拠(≪省略≫)によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告が真里谷から購入したのは、いわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権である。本件クレジット契約は、原告が作成した定型のゴルフ会員権クレジット契約書に購入者、販売会社、支払口座等の必要事項を書き込む方法で締結され、契約書の裏面には契約条項が記載されている。その一〇条に売買契約に係る支払停止の抗弁として、次のとおり規定されている。すなわち、申込者は、以下の事由が解消されるまでの間当該事由の存する商品について支払を停止することができ、その事由には、「商品の引渡しがなされないこと」、「商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること」、「その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること」が規定されている。

2  本件ゴルフ会員権に係るゴルフ場は、真里谷が三つ目のゴルフコースとして平成元年一一月に開発許可をとり、平成四年度の完成を目標として平成元年一一月ころから会員を募集したゴルフ場で、平成二年三月からコースの工事に着工したが、真里谷が資金不足に陥ったため、平成四年三月に荒造成段階で工事が停止したままとなっている。

3  真里谷は、昭和五八年七月に設立された会社で、昭和六三年四月には真里谷カントリー倶楽部を、平成三年七月にはザ・カントリークラブ・グレンモアをそれぞれ開場してゴルフ場を運営していた。真里谷は、当初経営も順調で、ゴルフ場の入会金、預託金を国内事業や海外事業の事業投資に向け、昭和六一年四月ころから株式投資にも多額の資金を投じるようになったが、株式相場の下落等により莫大な損失を出して、事業投資、株式投資が失敗し、平成三年九月には原告により真里谷カントリークラブの競売申立てが、同年一〇月にはグレンモアの競売申立てがされ、平成五年三月には、真里谷有志の会会員から、同年八月には原告からそれぞれ出された会社更生手続開始の申立てが受理され、同年八月五日には東京地方裁判所から保全管理命令が発せられ、平成六年一二月二日には更生手続開始決定がされた。

管財人の調査報告によれば、本件ゴルフコースは、平成七年一〇月までの工事延期願いが千葉県に受理されており、完成までに今後数十億円の資金投入が必要であるが、会員、地元地権者の利害、防災、環境上の観点からゴルフ場として是非とも完成をさせたいとされている。

二  右認定の事実によれば、被告が真里谷から購入したのは、開場前の新設ゴルフ場に関するいわゆる預託金会員組織のゴルフ会員権である。被告によるゴルフ会員権の購入は、被告と真里谷間のゴルフ場の入会利用契約の締結であり、被告の入会契約の申込と真里谷のこれに対する承諾とによって被告と真里谷との間にゴルフ場の入会利用契約が成立し、被告と真里谷との間でゴルフ場施設の優先的利用権等の権利と年会費納入義務を包括する債権契約上の地位が創設されるということができる。弁論の全趣旨によれば、被告と真里谷との間にゴルフ場の入会利用契約は遅くとも平成二年の二月ころまでには成立していることを認めることができる。

被告は、本件ゴルフ場が平成四年度までに完成予定であるのに完成しておらず、ゴルフ場の利用ができないことをもって商品の引渡がないとか商品の瑕疵であるとか主張するが、ゴルフ場の開場が遅延しているという事由は、その遅延の程度、遅延に至った事情等により真里谷の被告に対する入会利用契約上の債務不履行責任を構成する事由とはなりえても、かかる事由をもって、本件ゴルフ会員権について商品の引渡がないとか商品の瑕疵であるとかいうことはできず、被告の主張を採用することはできない。

三  契約書一〇条には、商品の販売について販売会社に生じている事由があるときには支払停止ができるとの条項があることは前記認定のとおりであるが、原告と被告との間で本件クレジット契約を締結した平成元年一二月から平成二年初めころにかけては、真里谷の経営も平成二年三月期に利益を出すなど比較的好調な時期であって、≪証拠省略≫によれば、真里谷の経営が株式投資による損失等により破綻して資金不足をきたすのは平成二年四月から平成三年三月にかけての第八期以降のことであり、それもバブル経済の崩壊による取引相場の下落によることが大きいと認められるのであるから、真里谷の資金不足によりゴルフ場の開場が大幅に遅延し、真里谷が更生会社としてゴルフ場を開場させる具体的な見込みが現在たっていないとしても、かかる事情については、本件クレジット契約締結当時原告にはとうてい予測が困難であったと認めることができる。そうすると、これを契約書一〇条にいうところの商品の販売について販売会社に生じている事由があるときに該当するものであるとは解することができない。

四  そうすると、被告の抗弁はいずれも理由がないから、原告の本訴請求は、理由がある。

(裁判官 小野洋一)

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